第9章 縁談
光秀さんが、相手の方と話すからと私の手を引いて座敷に向かった。
「本当に大丈夫なのですか?私、土下座しましょうか?」
「そんなこと、しなくていい。お前は何もせず、静かにしていろ」
「…そんな…」
だって、光秀さんが何を言い出すかわからないから不安だ。
…縁談を急に破断にして、光秀さんが責任を取ることになったらどうしよう。
私たちは、座敷に通されたがそこには誰もいなかった。
代わりに、ゆったりと座っている人物が。
「……信長様?」
織田信長は、愉快そうに笑った。
「遅かったな。…縁談の話など、俺が許すわけなかろう?」
空気が一瞬、凍った。
「これは、俺の持ち物だ。この娘の相手は俺が決める」
後ろで気配が動き、光秀さんが膝をついた。
「………信長様、お戯れが過ぎます」
「なんだ、光秀。随分と血相を変えていたな。腑抜けになったものだ」
光秀さんが黙っていると、信長様は口元で薄く笑った。
「光秀」
信長様の目が細まり、光秀さんを捉えた。
「もし俺が止めなかったら、どうしていた?」
やや間があった後、光秀さんは迷いなく答えた。
「相手の男を消していたでしょうね。誰にも気づかれないやり方で」
空気が張り詰めた後、信長様は豪快に笑った。
「ははははは!やはりか!」
笑いが止まらない信長様を静かに見つめる光秀さんが対照的で、私は何も言えなかった。
「お前のような男が、一人の女(おなご)にここまで入り込むとはな…」
信長様は私を見ると、
「良い余興だった」
そう言って、立ち上がった。
「…光秀。欲しいなら、奪い取れ。俺は構わん」
襖が閉じられ、静寂が戻った。
………