第9章 縁談
縁談の日…
部屋の襖が開く音がした。
「……政宗?」
振り返った私の前に立っていたのは、
——光秀さんだった。
一瞬、息が止まる。
「……来ないと思ったか?」
穏やかな声で、まるで何事もなかったように言う。
「政宗は忙しい。代わりだ」
…嘘。
でも何も言えない。
「こちらに立て」
そう言って、光秀さんは私の後ろに回る。
彼の白い指が、帯を整える。
着付けの手は、驚くほど丁寧だった。
触れるか触れないかの距離で、私を整えていく。
…何も、感じていないみたい。
ずっと俯いている、私とは正反対だ。
それが余計に苦しかった。
私が顔を上げた、その時。
「……綺麗だな」
鏡越しに光秀さんと目が合った。
その一言で、何かが崩れた。
ぽた、と涙が落ち、化粧が崩れていく。
崩れた化粧を、彼は何も言わずに直した。
また、涙が頬を伝う。
それも、また静かに光秀さんは直した…。
私の涙が止まるまで、彼はずっとそうしてくれた。
指先が頬をなぞり、最後の仕上げのように、紅を引く。
「これで良い」
「ありがとうございました…」
立ち上がった私が、襖へ向かおうとした瞬間。
光秀さんに腕を力強く掴まれ、私は振り向いた。