第9章 縁談
「何で言わなかったんだよ。あれじゃ可哀想すぎるだろ」
「…政宗か。いつからそこにいた」
「面白そうな話が聞こえてきたかと思えば、なんだよ…痴話喧嘩か?お前ら、恋仲じゃなかったのかよ。随分と冷たい言い方だな」
「正式にそうしていたわけではない」
「嘘つくんじゃねーよ」
ぴしゃり。
政宗は怒鳴った。
「お前が裏でずっとあいつの縁談の話を潰していたくせに、よく言うぜ」
「……気づいていたのか」
「そんなこと、どうでもいいんだよ。お前らしい姑息なやり方だ。なんでそれを貫かない?あいつをずっと独り占めして、隠れて愛でてたくせして」
「…幸せな結婚を…したいと言っていたのだ。俺では、その夢は叶えられない」
「だからって、急にあいつに縁談をぶつけるなんて…どんな暴力だよ。お前らしくもねぇ」
「…そうだな。早急だったか」
「確かに、あいつの人生はあいつのもんだ。なら、あいつの幸せもあいつが決めるもんだろ?」
「…返す言葉もないな」
ふっと自虐気味に光秀が笑うのを、政宗はじっと見つめる。
「お前、本当にそれでいいのか?」
光秀は何も答えなかった…
………
「いつまでそこにいるんだよ。何にもない庭見て、面白いか?」
「…政宗?」
気づいたらずっと縁側に座り込んでいた。
「初めての縁談、そんなに衝撃だったか?」
カラッと笑われて、少し救われる。
「うん。私…ここに来てから、お城の中でも外でも、男の人に声掛けられたり、言い寄られたりしないから。そういうのは、縁がないものだと思ってて」
「ほーぉ。随分と執着されてたんだな」
「……何が?」
「いや、こっちの話。おかしいだろ、お前美人なのに」
「美人って…持ち上げすぎだよ」
美人なんて…
光秀さんに言われたこと、あったかな。
綺麗だと言われたことは、あった気がする。
二人きりで、会っていた時に。
ぽたぽたぽた…
涙が急に溢れてきて、手に落ちた。
「へへ、美人なんて言われ慣れないから…嬉しくて泣いちゃった」
政宗が心配そうにこちらを見ているのに、涙が止まらない。
…もうあの人は、私を綺麗だと言ってくれないだろう。
二人きりで会うことも。
あの腕に抱かれることはない。
「ごめん、私…バカみたいだね」
「……そんなことねぇよ」