第9章 縁談
初めて、私に縁談の話が舞い込んだ。
今まで一度もなかったから、私には来ないものだとばかり思っていたのに…。
「あの、これって断れますか?」
「…なんだ。物凄く良い話だぞ。相手も申し分ない」
信長様にそう言われ、私は縮こまった。
「私、結婚とかまだ良いですし…」
「……ほう?聞いた話と違うな。お前が結婚したがっていると、光秀から聞いたのだが」
「……えっ!」
思わず大きい声を出してしまい、私は頭を下げた。
「すみません、でも…このお話は…」
「無理にとは言わん。少し考えてみろ」
「はい…わかりました」
私は天守閣を後にした。
光秀さんが…まさか。
私たちは恋仲だと思っていた。
何度も夜を重ねて、私がそう勘違いしていただけ?
優しくされていたから、私が思い上がっていただけ?
でも、よく考えたら、「可愛い」とか「俺だけを見ろ」とは言われていたけれど、「好き」とか「愛してる」って…一度も言われたことなかった。
私は居ても立っても居られなくて、光秀さんの部屋に向かった。
「光秀さん、私…聞きたいことが」
「縁談のことか?」
「…知っていたのですか?」
「——そうだな」
光秀さんは目を伏せ、こちらを見なかった。
「評判の良い、優しい男だ。きっと幸せになれる」
「……光秀さんは、私が…誰かと結婚してもいいの?」
止めてくれるかと思った。
俺以外の男など…と、嫉妬してくれるかと思った。
「お前の人生はお前のものだ。お前が決めればいい」
「そう…ですよね」
本当に悲しい時って涙は出ないんだわ。
びっくりしすぎて、何も考えられない。
「わかりました。…急に来て、すみませんでした」
やっと出た言葉と一緒に、身体から込み上げてくる。
私は、その場を逃げるように去って行った。