第8章 恋仲になりまして
「——欲張りだな」
ぽつりと落ちた声は、
思っていたよりも、ずっと柔らかかった。
「え…?」
「昨夜だけでは、足りなかったか」
「……っ」
顔が、一気に熱くなる。
否定できない。
できるわけがない。
そんな私を見て、
「仕方ない」
小さく笑う気配がした。
次の瞬間、ぐっと距離を詰められる。
「……っ」
壁に追い込まれる。
昨日と同じなのに、昼間というだけで、全然違う。
「ならば、教えてやる」
耳元に、低い声が落ちた。
「人前では、こうだ」
そう言って、
指先が、そっと手に触れる。
ほんの一瞬。
誰にも気づかれないほど、自然だった。
「……っ」
心臓が跳ねる。
「誰にも分からぬように」
もう一度、今度は少しだけ長く。
「こうしておけばいい」
それだけ言うと、すぐに彼は離れた。
何事もなかったように。
「ではな」
また、あの“いつもの冷静な顔”
でも。
さっき確かに触れられた手が、まだ熱を持っている。
「……もう」
小さく呟く。
「ずるいです…」