第8章 恋仲になりまして
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その日の夕刻。
部屋に戻ろうとしたところで、背後から、腕を引かれた。
「……っ」
驚く間もなく、
そのまま引き寄せられる。
「声を出すな」
低く囁かれ、誰かはすぐにわかった。
「……み、光秀さん…?」
人気のない廊下の陰。
さっきまでの“公の顔”とは違う距離に戸惑う。
「なぜ、何も言わなかった」
「え…?」
「今朝だ」
ああ、と気づく。
「だって…いつも通り、だったから…」
そう答えると、
わずかに、ため息が落ちた。
「当たり前だ」
「……っ」
「人前で、昨夜のように振る舞えと?」
「そ、それは…」
言葉に詰まる。
確かに、それは無理だけど。
でも…
「……少しくらい」
思わず、こぼれる。
「少しくらい、特別でもいいじゃないですか…」
言った瞬間、しまったと思った。
でも、もう遅い。
「……」
沈黙が落ちた。
怒らせたかもしれない。
そう思った、その時。