第10章 S/F/L@忍足侑士
「あの、恋人って、私、だけ...?」
「当たり前やろ」
そこ疑うんか?とうんざりしたような顔をした。
「だって...忍足先生みたいな人が、私なんか相手にしないと」
なんやそれ、と俯いた額を指先で押されて顔を上げる。
「自分、ほんまに自信言うもんが無いんやなぁ」
「だって、忍足先生みたいにお医者様でもないし」
「医者なんか、石投げたら当たるくらい世の中におるわ」
「...ダジャレ?」
「ちゃうわ」
また、だって、と彼のシャツを掴む。
「たまたま貧血で倒れたのを助けてくれた人がお医者様でっ
それがきっかけでご飯に行ったりしてくれて、デートみたいなこともしてくれて、その、そのっキス、してもらったりしたら...つけあがるというか、勘違いするっていうか...」
「『してもらった』ってなんやねん。
あー、まあ...同意取る前にキスしたんは謝るわ」
「あ、謝ってほしいわけじゃなくてっ」
「けど、こっちの意見言わしてもろうたら、下心アリアリで誘ったんに、あないにうれしそうに笑っとったら、脈アリや思うやろ」
「でも、『付き合おう』とか『好き』とか言われたわけじゃなかったし...」
「ほんまに思っとると、案外、言葉にせんもんやで」
特に男は、と言う彼の胸に顔を埋める。
「そう思っとったから、ずっと『忍足先生』呼んどったん?」
「気安く名前なんて呼べる立場じゃないかと...」
「アホか」
「ひどい...」
おずおずと腰に腕を回して抱きついた。
「甘えベタなんやと思うとった」
「その、ある程度の線引きは、しておくべきなのかと」
「そもそも、付き合うとる人はおらんて、言うてなかったか?」
「あー、ほら...口ではね、なんとでも、言えるじゃない、ですか?
会えるのはいつも週末だし、会っても、次の約束するわけじゃなく、前の日かその日にって感じだったし」
「言い訳やけど、一応はこれでもそれなりに忙しい身やねん。明後日、突発で九州まで学会、とかあるわけやし。
会える思うとったのに会えへんでさみしい思いするなら、会えへん思うとったのに会えた方がうれしいやんか」
「え、めっちゃロマンチスト...」
「軽く引くのやめぇや」
引いてないっ!と慌てて否定する。
「ん?ちょお待ってや。
ちゅうことは、自分、遊びでキスされとると思うとったん?」
「...あははっははっ!」
