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思いつき短編や長編の番外編など

第10章 S/F/L@忍足侑士



時計が無い部屋の静寂に、心音だけが大きく聞こえている。

ソファから降り、ローテーブルに肘を乗せた手で頭を支えていた忍足先生が、うん、と顔を上げた。

「まず、結婚はしてへんよ。
 したこともない」
「はい、」

胡座をかく彼の横で、正座で頷いた。

「そんで、テニスしとる人間やとよぅある話やけど、コレはテーピングの日焼けや」

ちなみに、とワイシャツの袖を捲る。
手首の辺りと肘より少し上の皮膚が少し、白い。

「これでも、現役でやりよった頃に比べたら薄なったんやけどな」

おもむろに立ち上がった彼を視線で追うと、テレビボードの下から何か取り出す。

「アルバム?」
「証拠になるか?」

開いて渡されたそれを見る。

「これ、俺や」

長い指先が、個人写真の中の『忍足 侑士』を指さした。

丸いレンズのメガネと襟足が長い髪は、確かに面影がある。

「手が写っとる写真なんや、あるか?」

えっと、と次々捲られるページ。

『委員会、部活動』と書かれたページに、見てみ、と指さす。

「あ、」
「ここ3人が同級生で、このメンツは幼馴染。
 手、見てみ」

同じユニフォームの4人の男子生徒。
カメラに向かって笑い、ピースをしている2人の手には白いものが巻かれている。

「あ、う、っと」
「テーピングてわかる?
 スポーツする人間やと、怪我防止とかに手とか脚にようするんやけど」
「わ、かります...」
「TFCC言うて、テニスしとると利き手のこの辺り痛めやすいさかい、テーピングしとくんや。
 俺は右利きやけど、両手打ちもようするさかい、両手にテーピングすんねん」

小指側の手の側面を撫でながら、まあ、確かに、と苦笑気味。

「見ようによっては、指輪しとった跡みたいに見えん事もないな」

こっちから見たら尚更やな、と自身の手の甲を翳す。

「まさか、こないな跡で、恋人やと思っとった人に、5カ月も既婚者やと思われとったとはなぁ」
「いや、あの、本当に...すいませんでしたっ」

ラグに手をついた紫雨を、やめぇや、と引き寄せる。

「ないもんの証明ってなかなか難しいんやけど...
 結婚もしてへんし、こうやって二人で過ごすような女ん子も紫雨だけやで」

抱き締めて額にキスをした彼を見上げた。

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