第10章 S/F/L@忍足侑士
えらい大人しかったんはそういうことか、と嘆息する忍足先生。
「本気やったら、相手されへんのかな?」
「そんなことは、」
よかった、と抱き締められる。
「好きや。
愛してんで」
頭を撫で、優しくこめかみに触れる唇。
「どうしたら、信じてもらえるんやろうか?」
力が込められた腕に触れる。
「...名前で、呼んでも、いいですか?」
「当たり前や」
「侑士、さん」
「紫雨」
「侑士っ」
「紫雨」
「んっ」
いつもよりも少し強引なキス。
ゆっくりと離れると、少し下から覗き込む忍足先生。
「しかし、なして自分、浮気相手かもしれへんなんや思たんや?」
「え、っと...
忍足先生、氷帝大学病院で仕事してるって言ってました、よね?」
「せやで」
「その、興味本位で何科なのかなぁって調べてみたけど、『忍足』って名前、無くて...」
「...ああ、俺、勤務医ちゃうから」
「キンムイ...?」
「自分の病院やなくて、大きいとこに雇用されて人診る医者。
俺は、外来は見らん研究中心の研究医やから」
そうや、と言って、待っとき、と部屋を出た。
戻ってきた彼の手には、大きなハードファイル。
「これ、写真つけろ言われたやつやから...」
片手で支えて片手で捲るファイルには、ぎっしりと詰められたレポートのようなもの。
「証拠になるか?」
ん、と差し出されたページには、大量の文字と小さな彼の写真。
俗に言う「医学論文」と言われるやつなのだろうということは雰囲気から察したが、中身のことはちんぷんかんぷんだった。
インデックスがいくつか付いていて、それを辿ると、論文のタイトルが変わった。
最後の方には、ほかの人の論文も入った冊子があり、その中に著者の経歴書があった。
「なんやったら、戸籍謄本でも取り寄せよか?」
今はコンビニでも取れるんやっけ?と言った忍足先生に、だ、大丈夫ですっ!とファイルを返した。
「免許証、名刺、診察カード...
この部屋の契約書、公共料金の領収書くらいやったらすぐ出せるで?」
あとは保険証券?ああ、キャッシュカード、クレカ、職場のコンビニのポイントカードやったらここに、と鞄から財布やカードケースを出す彼。
「給与明細...は、パソコン中やな」
「大丈夫ですっ充分、証明していただきましたっ」
✜