第10章 S/F/L@忍足侑士
いつものように、何でもいい、と言いうと、何でもなぁ、と困りながら、ほな勝手に決めるで、と彼が選んだお洒落な半個室のお店で二人きりの食事をして、私だけ少し、お酒を飲んで再び車に乗り込む。
「ドライブでもしよか?」
明日休みやろ?と微笑む忍足先生。
「紫雨、行きたいとこ、ある?」
勧められて飲んだシャンパンで火照る首筋を撫でながら、どこにしましょうかねぇ、と考える素振りをする。
それなら、いつものコンビニで降ろしてもらって、缶チューハイとつまみを買って、一人暮らしの部屋で酒盛りでもしたい、と瞬きをする。
「どこでもええんなら、来てほしいところ、あんねんけど...」
言い淀む彼を見た。
「ちと、遠くてもええか?」
「明日は、休みなので」
「ほな、そこにしよ」
そう言うと、寝てもうてもええよ、と片手を指を絡めて繋ぎ、片手でハンドルを握った。
「ついたら起こしたる」
そう言って走り出した車。
(連れていきたい、じゃなくて、来てほしいところ...?)
プライベートなことはほとんど知らない。
知っているのは、名前と、医師であることだけ。
ハンドルを握る彼の横顔を見ても、何一つ、新たな発見は見つけられなかった。
✜
少しの浮遊感に、ん、と意識が浮かび上がって目を覚ます。
(なんか、消毒液みたいなにおいする)
病院みたいな、とぼんやり目を開けると、起きたん?と低い声。
「もうつくさかい、そろそろ目、覚ましとき」
彼に抱き上げられているのだ、と理解し、んー、と細身な身体に抱きつく。
「甘えん坊やなぁ。紫雨は」
かわええわぁ、と心地よい訛りの低音に重なるように、ポーン、と上品な音。
歩く彼からの心地よい揺れが落ち着くと、よっ、という声で、背中を支える腕が動く。
ガチャ、と鳴った音に、え?と目が覚めた。
「ここ、」
ストン、と落とされたのは三和土の先の上がり框。
「あの、もしかして...」
「ん?うちやで」
靴を脱いで先に行った彼が、ん、と差し出した手に掴まると、そっちが風呂場や。んで、こっちがお手洗い、と手を引かれながら部屋に入る。
「寝室がそこで、こっち、リビングやね」
どーぞ、と開け放たれた扉の先には、彼の生活空間があった。