第10章 S/F/L@忍足侑士
週末。
なんの当ても無く、会社からほど近いデパートを適当に見て回っていた。
なんとなく帰りたくなくて、携帯で映画の上映スケジュールを検索する。
(映画、か)
好きだよね、ラブロマンス。と浮かぶ顔。
画面の上部に降りてきたバナーに、ギョッとする。
仕事、終わった?
それだけの差出人は「忍足先生」。
まさに今、頭の中で微笑んでいる人。
どう返すか悩んでいると、新着。
どこおる?
既読つけちゃったし、と、会社近くのデパートにいることを伝えた。
東口あたりん通りに出れるか?
まさにそちら側の建物にいる、と、わかりました、と返事をして、比較的人通りの少ない東口から出る。
程よく冷えた店内から、湿り気を孕む灼熱と排気ガスでむわ、とした空気の外に出ると、大通りの車寄せに停められた見慣れたセダン。
気づかないふりで視線を外し、居場所を探す素振りを見せると、手元の携帯が震える。
目の前おるよ
わかってる、と視界に入れないようにしていた車にゆっくり、ゆっくりと歩み寄る。
後数メートル、というところで運転席の扉が開く。
「紫雨、お疲れさん」
わざわざ助手席側に回って、ドアを開けた彼の左手の薬指付け根には、日焼けの跡。
「こんばんは、忍足先生」
「こんばんは。
て、なんや仰々しぃやんか」
むず痒いわ、と色っぽく笑った彼にエスコートされて、助手席に座る。
「仕事、終わったばっかやろ?
お腹、すいとる?」
運転席でシートベルを引く彼に、いつものように、はい!と返事せず、そうだなぁ、と用も無い携帯を見る。
「そうでもなさそうなや」
「今日は、ご飯はいいかな」
「珍しいやん」
そしたらどないしようか、とハンドルを握る手を見る。
やっぱり、左手の薬指に、細く、日焼けしていない跡がある。
そこに嵌るものはどこに隠しているんだろうか、と見つめていると、紫雨と呼ばれて、頬に触れる手。
音もなく離れた唇が掠めそうな距離で、額を突き合わせて微笑む彼を見た。
「そないに見つめんとって」
ちゅっ、と化粧を施した頬にも触れた。
「めっちゃキスしたなる」
「んっ」
細いシルバーのネックレスをつけた首筋に、彼の唇が触れ、運転席側のサイドガラスに映った自分をただ、見た。
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