第9章 innocent@忍足侑士 ❦
✜
侑士!と呼び止められた。
「次、音楽?」
「せや」
「榊先生だね」
「紫雨は、数学か」
クラスの後方黒板の時間割を見た。
「宿題出るみたいだから、また教えて?」
「ええよ」
「部活終わるまで待ってていい?」
「ん、一緒帰ろや」
「うん!」
いってらっしゃい、と手を振る紫雨の頭を撫でて、音楽室に向う。
角を曲がった背中を見送り、教室の席に戻る。
「紫雨さあ」
声をかけてきたのは、前の席に座る友人。
「『くん』づけだったじゃん、彼氏のこと」
「なんか、名前だけがいいって言われて...」
「おー、一歩前進。
初々しかったもんねぇ」
ニヤニヤとした友人の笑顔に、うるさいなぁ、と苦笑い。
「夏休みまでに一線、越えるといいねぇ」
「あ、う、っと...」
カア、と熱くなった顔を俯け、いそいそと次の授業の支度をする。
「え、うそ?」
「もっ黙秘権!」
「いや、それ答えじゃんっ!
え?キスはしたって言ってたよねっじゃあっ」
「はーい!予鈴鳴りますよーっ!
先生来ますよーっ!」
「ランチ、連行するからなっ」
ビシッ!と指を差され、しまった、と苦笑する。
本鈴直前に震えた携帯。
-ランチ、カフェテリアでええ? 侑士-
次の授業の担当が、教室後方の出入り口から廊下を通って前方黒板前の教台に立つまでの僅かな時間で返事を打つ。
-ごめんっm(_ _;)m
クラスメイトに捕まっちゃった 紫雨-
返事が来るより早く、一つ隣の特別教室棟から、ピアノの音色が聞こえてきた。
返事が来たのは、終鈴が鳴った50分後。
-すまん。俺もガクトに捕まってもうた
明日にしよ 侑士-
彼が顔に出すとは思えないので、自分のせいかもしれない、と苦笑い。
午前最後の授業の終鈴が鳴った瞬間、行くよっ!と友人に腕を引かれ、あれよあれよという間に購買でサンドイッチを持たされ、カフェテリアの角の席に座らされて始まった『尋問会』。
放課後。
部活終わりの侑士といつものように待ち合わせて帰る。
「自分ら、声、よぉ通るなぁ」
昼休みにカフェテリアの2階。
ちょうど自分たちが座った席の真上に男子テニス部のメンバーがいたことを知り、ごめんなさいっ!と彼の胸に顔を埋めて謝り倒した。
end