第9章 innocent@忍足侑士 ❦
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バスルームにあったシャンプーとトリートメントは、女性向けのブランドだった。
脱衣所の洗面台には、ヘアケアブランドのドライヤーがあって、(高級志向だな)とありがたく借用した。
「やっぱりいいやつはいいな」
サラサラの手触りになった髪に、お年玉で買おうかな、とドライヤーを片付ける。
「侑士くーん、上がったよ?」
着替えた服を持ってリビングに戻ると、昔の歌を特集した番組を聴きながら本を読んでいた。
「ドライヤーお借りしました」
「風邪引かんように、ちゃんと乾かしたか?」
乾かしたよ、と髪に触れる彼を見る。
「ほな、俺も入ろ」
「うん」
ポス、と頭に置かれた文庫本を受け取る。
「テレビ見とってもええし、先、俺ん部屋行っとってもええよ」
はぁい、と侑士を見送り、渡された本のタイトルを見る。
「『左手で交わした約束』...」
相変わらず、タイトルだけではストーリーが読めない本を読んでるな、と挟まれた栞が落ちないように表紙を捲る。
主人公は男性だった。
別れたことを後悔していた恋人に再会するも、彼女が気になったきっかけであった左利きが矯正されていたことから、2人の時間の流れによる関係の変化を綴る物語だった。
(そう言えば、向日くんは左利きだなぁ)
学校でもよく侑士と一緒にいる、テニスのダブルパートナーであるレフティの彼。
侑士と交際を始めてからまともに話すようになったが、未だに「侑士の彼女」と肩書で呼ばれるせいか、最近は、男子生徒のほとんどが自分を呼び止める時に肩書で呼ばれるようになった。
何枚かのページを捲ると、リビングの戸が開いた。
「テレビの音せぇへんかったから、部屋かと思ったわ」
ソファの隣に座った侑士は、グレーのパジャマで濡れた髪があたる肩にタオルをかけていた。
「ん?」
眼鏡を掛け直し、どないしたん?と首を傾げた侑士の髪から、雫が流れる。
「侑士くんこそ、風邪引くよ?」
本をローテーブルに置き、拭かなきゃ、とタオルで髪を包む。
「ドライヤーしないの?」
「めんどいねん」
「してあげようか?」
柔らかなタオルの間から、ええの?と侑士の目が覗く。
「頼むわ」
優しく腕を引かれ、また、脱衣所に向かった。
「少し屈んで?」
「ん」
向かい合い、頭を下げる侑士の髪を乾かした。