第9章 innocent@忍足侑士 ❦
「それ、熱いから触らんとき」
侑士が作ってくれたうどんは、滑らかな太麺と魚介系の澄んだ出汁が美味しかった。
触るな、と言われ、麺を茹でた鍋から手を離す。
「やけどしたらアカン」
下がっとき、とたっぷりのお湯が残る鍋を運ぶ侑士。
「ありがとう」
「すぐ終わるさかい、座っとってええで」
「見てたいから、ここにいていい?」
「なんもおもろいことないで?」
蛇口の水で湯を冷ましながら、洗い物をする侑士の隣に立ち、その様子を見る紫雨。
「見てたいの。
調理実習、班、違ったし」
「そもそもの組み分け、別やったもんな」
「調理実習室にピザ窯あるのなんて、氷帝だけだよね」
「あれ、いつ使うもんなんやろ」
「え?1年の時にピザ、作ったじゃん?」
「1年の調理実習、スパニッシュオムレツやったやん」
ピザなんや作ってへんよ、と言う侑士。
「最初が洋食で、オムレツとコーンスープやった。
2年ときが和食で、確か...あっおひたしと焼き鮭」
「ピザ...肉じゃがの記憶なんだけど...もしかして、クラスでメニュー違ったっ!?」
知らなかったんだけど!と驚く紫雨に侑士も驚く。
「前半と後半、分かれとったからメニュー違ったんや」
「オムレツがよかった」
「俺は肉じゃがの方がええわ」
混ぜて焼くだけや、と言う侑士と、ないものねだり、と笑い合う。
「3年は、確かホールケーキやろ?
毎年、『ラスト・クリスマス』やて作るらしいやん」
「サッカー部、毎年、ケーキ顔面当てゲームするらしいね」
「らしいな
前ん生徒会の先輩、集中砲火くろうてクリームまみれならはったらしいで」
「跡部会長...やる?」
「恐ろしいこと言わへんの」
「向日くんあたりはやりそう」
否定でけへんわぁ、と笑った侑士は、終わり、と洗い物が片付いたシンクを拭き上げた。
「慣れてるね。
いつもお手伝いしてる?」
「姉ちゃん、大学入って帰るん遅なったからなぁ。
オカンひとりキッチン立っとると、気になんねん」
「いい子だね」
いつも彼が撫でてくれるように、少し背を伸ばして、いい子、と彼の頭を撫でる。
「ええ子のご褒美、あらへんの?」
その手に口づけながら伏し目をちら、と上目遣いする侑士。
「ご褒美って、そういうご褒美?」
笑って誤魔化した侑士の頬を優しくつまんだ。
