第9章 innocent@忍足侑士 ❦
駅に降り、そう歩かずに彼と入るマンションのエントランス。
カードキーでエントランスを開けた侑士。
「なんかかっこいい」
「ただのオートロックのカードキーやで?」
父親の転勤で転居してばかりだった侑士にはごく普通のことであるそれが、生まれて一度も引っ越しの経験が無い中古一軒家ぐらしの紫雨には新鮮だった。
「帰るのにエレベータに乗るっていうのがさ」
「集合住宅住みと一軒家住みの感覚の違いやな」
着いたエレベータに乗り込み、住居階を押す。
扉が開いたエレベータを降り、こっちや、と彼に手を引かれて向かったのは角部屋。
ドアノブのあたりにカードキーをかざしてドアを開けた侑士に、(ホテルみたい)とちょっと緊張する。
「ただいま」
「おじゃましまぁす」
返事は無く、侑士に、上がり、と言われ、三和土に靴を揃え置く。
「こっちが手前からトイレと風呂場。
こっちが、いっちゃん手前がオトンとオカンの寝室。
奥が俺。姉ちゃんの部屋と、あっちがリビング」
緊張しながらリビングに向かう侑士の背中を追いかける。
「お父さんとお母さん、いないんだっけ」
「オトンが出張で今日から明後日まで福岡行っとってん。
オカンもついて行っとって、姉ちゃんは友達とお泊り会なんやって
やから、そない気ぃ張らんと」
座っとき、と指先で示されたソファに、浅く、腰掛ける。
「水と麦茶、どっちがええ?」
「水で」
ふと視線を向けたチェストに、写真立てがあった。
「これ、侑士くん?」
「んー?」
一つの写真立てを手に取ると、あっ!と水入れたグラスをテーブルに置いた侑士に奪い取られた。
「見たっ!?」
「ふふ、うん。かわいかった」
いそいそとチェストの引き出しにしまわれた写真立てには、赤い被布を着た、幼い頃の侑士がいた。
「オカンの方のばあちゃんが、姉ちゃんに用意したやつで、もったいないからて...」
「ふふ、お姉さんがいる男の子にはあるあるだね」
「忘れてや」
一緒に並べられている写真に、同じ着物を着た女の子もいる。
「5歳か7歳のは無いの?」
「ええっと、ああこれや」
いくつか飾られた写真から侑士が手にした写真立てには、紋付袴を着て、凛々しい顔つきでこちらを見る5歳と7歳の侑士。
「かわいいっ」
「せやろ、俺、かわええんよ」
「開き直った」
ふふ、と笑う。
