第9章 innocent@忍足侑士 ❦
キーンコーンカーンコーン...
夕焼けを切り取った窓の教室で、ハッと顔を上げる。
教室の窓から見下ろすと、すでにサッカー部や野球部が下校している。
机の上の教科書類と筆箱を慌てて通学鞄にしまい、いつもは無いトートバックを共に、教室の電気を消して施錠した。
職員室に教室の鍵を返しに行くと、廊下の向こうから夕日を背負う陰。
「紫雨」
「っ侑士くん!」
「部室んとこいてへんかったから、教室やろうな、と思うて」
「えへへ。すいません」
貸しや、と取り上げた鍵を手に、失礼します、と開いている職員室に入る侑士。
「帰ろか」
「うん、」
差し出された手をそっと掴むと、強く、優しく握り返された。
昇降口で靴を履き替え、いつもは正門のバス停に向かう足取りが駅に向かう。
「貸し」
「え?あ、」
いつもは無いトートバッグを取り上げ、ラケットバッグと通学カバンと共に肩にかけた侑士。
「いいよっ」
「ええから。
恋人らし事、さして」
「っありがとう...」
再び繋がれた手に引かれて歩き出す。
「夜、うどん作ろ思とるけど、あとなんか欲し?」
大阪のうどん食うてみたい言うてたやろ、と歩調を合わせてくれる。
「作ったるよ。麺は乾麺やけど」
「打つところからする気だったの?」
「『手料理』言われたかて、たいそうなもん作られへん」
「十分だよっ
おうどん、好きよ」
駅に着き、ICカードの定期を出す侑士が、ええと、と路線図を見ながら財布を出す。
「いいよ。チャージしてる分があるから」
区間の違う同じICカードで改札を抜ける。
ホームは、仕事帰りや同じ帰宅途中の学生服の人で埋まっていた。
「紫雨はバスやもんな」
「電車、ちょうどいい時間無いし、バス停の方が近いの」
「方角、まるっきりちゃうからなぁ」
学校を中心に見ると、3時と8時の方角にあるそれぞれの自宅。
一緒に登下校、という青春は送れなさそうだ。
「心配やわ。
公共機関も安全ちゃうし」
「痴漢された事は無いなぁ」
「されたらすぐ言いや。
警察呼ぶんやで?」
「気をつけるよ
心配してくれて、ありがとう」
見上げて微笑むと、紫雨はかわええから、と侑士はその低い位置の頭を撫でた。
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