第8章 あと数日、あと数年@忍足侑士(19~23歳くらい)
いつものように本を読んでいた彼が、一番最初に贈ったブックマーカー挟んだ本を閉じて🌸ちゃん、と呼んだ。
「なに?侑士君」
「ちと手、貸してぇや」
うん、と差し出した手を握った彼をなんとなく見つめる。
忍足 侑士
この名字、「おしたり」と読むのだと知った時、「『おしだり』はおるけど、濁らへんのめずらしいねんで」と教えてくれた。
「侑士くんの名字って、関西...大阪でも珍しい方?」
「どうやろ?
言われてみれば、親戚以外で会うたことないな」
「そうなんだ」
「どうしたん、急に」
「しみじみ、かっこいい名字だな、と
あっ、もちろん下の名前もね!」
彼がにぎにぎと触れる左手。
右手で、侑士、と指で書く。
「『侑』ってやさしいとか言う意味だっけ?」
「励ます、とか言う意味もあったかなぁ」
忍足 侑士と何度か書く指の手も掴まれた。
「ちなみに、姓名判断やと『忍足』てあんまええ運勢ちゃう」
「そうなの?」
なにやら私の手で空に書く侑士くん。
何だろう、と動かされる指先を見て、あ、と漏らす。
忍足 🌸
バッ!と振り返ると、ん?と笑顔。
「まあ字面は悪ないな」
「プロポーズみたいじゃん」
「せやね」
「つけあがるよ?そういうことすると」
「ええんちゃう?俺はそのつもりでおるけど」
ちゅ、とこめかみに触れた唇が、指を絡めて握られる左手の薬指にもキスをした。
「ヴァンクリとハリーならどっちがええ?」
「どっちって...」
「ティファニーでもええよ」
「詳しくない?」
「もう、悩みすぎて決まらへんねん」
「なにが?」
「プロポーズの指輪」
「ぷっ!?」
「ほんまは告る時に渡そう思たんやけど、止められたわ。
重い、て」
でしょうともねぇ、と言いかけて気付く。
「私が告白したよね?」
「🌸が告白してくれた時、夢ちゃうか思うたんやで」
4年前。
大学の正門で待ち構え、一目惚れなので付き合ってください!と叫んだ私を、自分おもろいなぁ、と笑った顔に惚れ直した日まであと数日。
「結婚記念日やから」と、以降毎年、彼から花束をもらうことが習慣になるまであと数年。
end