第1章 序章
「ここですか?」
「はい」
私はよくわからないながらも車を降りた。
車の中で見た通り、周りに広がるのは住宅地。
更に言えばこじんまりとしたアパートの目の前だった。
意味もわからず、私はアパートを見上げる。
「着いてきてください」
私にそう言うと、アパートの中へと向かっていく彼。
私は唖然としながらもただ着いていくしかない。
そうして着いていくと、彼はアパートの1階の1番端の部屋へと歩いていく。
彼の自宅——、……では多分ないだろう。
こんな勤務中ど真ん中の時間にわざわざ戻るなんて、多分あり得ない。
では何なのか。
私が彼の背中をじっと見つめていると、彼は部屋の鍵を開け、中へと入った。
彼が「どうぞ」と促すものだから、私も恐る恐る中へとついていく。
きょろきょろしながら部屋の様子を見るけれど、どこを見てもただ普通にアパートの一室のようにしか見えない。
少なくとも私が密かに考えていたような、取調室だとかそういう部屋ではないのは明らかだ。
考えていたのとは違う状況に頭が混乱する。
少なくともわかるのは彼が危害を加えてきそうな気配はない、それくらいのことだった。