第1章 序章
ほとんど何も物の置いていない部屋に通され、彼から唯一置いてあった椅子に腰をかけるよう促される。
私は大人しく座ると向かいに立っている彼を見上げた。
見上げた彼の表情は窓から差した夕日が重なって、影のせいで見えない。
「貴方から色々聞きたいことはあるかと思いますが、こちらからまず一つ聞きたいことがあります」
少し緊張した声色に背筋が伸びた。
「貴方、異能を持っていますよね?」
彼の質問によって数秒の無言がもたらされる。
異能。
というと、時々ニュースで話題になる、あの"異能"だろうか。
「……あの、すみません。よくわからない、です……」
今の今までそんなこと考えたこともなかった。
私に異能があるかどうかだなんて。
そんな片鱗を感じたことは少なくとも私にはないし、周りからそう言うことで何かを言われたこともない。
「……本当ですか?」
彼の信じ難いとでも言いたげな声が聞こえてくる。
「逆に何でそんな風に思ったんですか?」
こちらからすれば彼からの質問の方が些か疑問である。
彼は私の答えには答えてくれなかった。
しばらく無言で考え込んでしまう。
「……いえ、貴方がそう言うならいいんです。わからないのならしょうがないですから」
わからない、という部分を強調するように彼はそう言う。
言葉の綾でわからないと言っただけなのに、何か隠してるとでも思われてしまっただろうか。
なんとなくそういう意図を感じる。
「とにかくですが、貴方、狙われてますよ」
「……え?」
「貴方の祖父方を収監したのはもちろん家業の方の取り調べの結果もありますけど、無駄な殺傷を増やさないためでもあります」
彼の言うことがいまいち理解できず、首を傾げる。
どこのどういう話がどう繋がっているのか、全く理解できない。