第1章 序章
確かに大広間には親戚一同が居た。
けれど、知らない人も一緒にいて。
スーツを着た人たちが当主の祖父含め親戚一同を拘束していた。
みんな、後ろに回った手には手錠が掛けられている。
至極異様な光景だ。
「さんですか?」
知らないスーツの人たちの中から、眼鏡を掛けた男性が突然私の名前を呼んでくる。
「えっ、あ、……っ」
上手く声が出なくて、こくこくと頷いて意思表示する。
誰なんだろう、この人たち。
そう思うけれどこの状態が何のせいなのかだけはすぐにわかった。
多分、家業のせいだ。
元々仄暗いことをしているのだと、感じられる部分はあった。
親族ですら限られた人の中で内密にされているくらいだ。
良いことをしていたとは考えにくい。
悉く親族の中枢にいた人物ばかりが捕まっているところを見ても多分原因はあながち間違っていないと思う。
大学卒業までの、あと1年。
その期間さえ過ぎてしまえば、その中身を私も強制的に知らざるを得ない状況に置かれていたのだろう。
けれど、こうしてみんな捕まってしまうのならその日は来ないのかもしれない。
見知った人たちが捕まっているというところで心が不安で陰るのを感じながらも実家への嫌悪からそんなことを考えてしまう。
ふと親族に目を向けてみれば、目のあった1人が助けを求めるような目線を私に向ける。
しかしそんなこと、私にできるわけもなく。
本当に悪いことをして捕まっているのだとすれば尚更だ。
それに何より親族らを捕まえている人たちが何なのかわからない以上、変に身動きを取りたくなかった。
わかることと言えば、落ち着いた様子や身なりからして野蛮な人たちではなさそうなことくらいだろうか。