第1章 序章
「ただいま帰りました〜……」
少し大きめの声で言ってみる。
すると長い廊下にただ私の声だけがこだました。
私のことなんて忘れてしまって、みんなでどこかへ外出してしまったのだろうか。
そんなふうに考えてみるけれど、そんなわけがない。
むしろそうなってしまえば願ったり叶ったりなのに。
そんなことを思いつつ、私は一先ず靴を脱いで奥へ行ってみることにした。
私の知る限り、警護も強固なこの家で何かが起こるようには思えなかったけれど、万が一ということもある。
皆が一同に会しているとすればおそらく大広間だ。
私は一番最初に向かう先を大広間に定めて、抜き足差し足で廊下をなるべく早く歩いて向かった。
長い廊下をしばらく歩き、大広間の襖の前まで行く。
ここに来るまでの間も静かするほどに音のしない家の中に怯えながら居たために襖を開けようとする手が少し震える。
それでも音を立てないように、と少しずつ襖を開けていくと人の影が見えた。
一番最初に見えたのは実家から一番近所に住んでいた叔父で。
大広間で正座をして座っている。
見知った顔を見て、苦手だったはずの人であったにもかかわらず私は安堵した。
そして私は襖を開いて。
「遅れてしまってすみませ——、……っ?」
中の光景を見た瞬間、遅れたことを詫びる言葉が途切れた。