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【文スト】触れた指先に【坂口安吾】

第3章 弐




「中々進展がありませんね……」


私はそう呟いた。


「貴方に危害がない点では良いことと言えますが」
「それはそうなんですけど……」


もし仮にこの部屋にも誰かが侵入したとすれば次こそ家なしになるんだろうか。
それだけは勘弁してほしい。

けれど、こうも何もないと本当の意味で日常生活に戻るきっかけもできないわけでもどかしい。

度々、彼から異能特務課の方の進捗を聞いてみたりはするけれど、特に進展はないらしく。
調査に手こずっているのだという。

本当に日常生活に戻ることができれば彼とはお別れになってしまうと思うとそれだけは少し寂しい気もするけれど。

そう思ってちらりと彼の方を見た。

彼と知り合ってからここまで、会うたびに少しずつではあるけれど仲良くなってきたと思う。

前はお互い最低限必要な会話だったものが今では普段あったことを軽く話せる程度には打ち解けた。

……そう思ってるのは私だけかもしれないけれど。

何にしても、私の立場をある程度知りながらも私をちゃんと見てくれる人というのが初めてで不思議な感じだ。


「そういえば学祭は今週末でしたよね?」
「あ、そうです」


彼に話しかけられて頷く。


「こちらの細かいことよりも学生生活を楽しんでください」
「……それもそうですよね」

彼の笑みに私も笑みを返した。



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