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【文スト】触れた指先に【坂口安吾】

第3章 弐





「それでは今日は帰りますね」


彼がそう言って立ち上がる。


「あ!ちょっとだけ待ってください」


私はあることを思い出して彼を引き止めた。


「はい?」
「学祭の日なんですけど坂口さん、多分ここに来ますよね……?」
「……ええ、おそらく」


彼は今日から学祭の日までを数えてそう言った。


「その日、打ち上げもあるので遅くなるかもです。なるべく早く帰りたいとは思ってるんですけど……」


本当ならばただ打ち上げには欠席すればいいのだけれど、この打ち上げだけはだいぶ前から決まっていたものだから今更断りづらい。

今年に入ってからというものゼミの懇親会等の飲み会をずっと断っていたものだから余計だ。

せめても、もう少し前に言えればよかったのだけれど打ち上げのことが頭から抜けていたからこんな直近になってしまった。

こんな私情で彼に負担を強いるのが申し訳ない。

そう思って小さくなっていると彼が「わかりました」という。
そしてそれに更に言葉を続けた。


「打ち上げが終わってから連絡をもらえれば迎えに行きますよ」
「……え、迎えに?」


彼の言葉に驚いて聞き返してしまう。


「坂口さんが、ですか?」


私がそう言えば彼は「不服ですか?」と言って私をじっと見つめる。
私は慌てて首を横に振った。


「不服とかではなくて……! ただでさえ忙しそうな坂口さんをそんな夜遅くに呼び出せないですよ」
「慣れてますから気にしないでください」


慣れちゃいけないやつ!

そう思いつつも彼らしいと言えば彼らしい。
だからといって余計な仕事を増やすのは本意ではない。


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