第2章 壱
夕日も落ちかけ、辺りが暗くなってきた頃。
バイトを終え、家路を辿っていたとき。
「さん」
後ろから足音と共に私の名前を呼ぶ声が聞こえて後ろを振り向く。
「! 坂口さん」
私が振り向けば坂口さんが後ろにいて。
今日はやけに会う日だな、と思いながらも会釈する。
「今、帰りですか?」
「はい、ついさっきバイトが終わって……」
「日中はありがとうございました」
「いえいえ!」
私は顔を横に振る。
「坂口さんは仕事中ですか?」
「今日は早めに貴方を訪ねて切り上げようと思いまして」
「あ、そうなんですね」
今日は坂口さんが来る日だったと彼の言葉で思い出す。
早く帰れるのだったら良かったと彼と会って以来、早く帰っている様子がなかったものだから安堵した。
彼が来るのは大体夕飯も終えてゆっくりとしている時間帯であった。
それから帰っていたのか、それともまた仕事に戻っていたのかは定かでないけれどなんとなく後者な気がする。
「……今日はカフェのあたりで仕事だったんですか?」
帰路の途中、昼間のことを聞いてみる。
私は確か彼にバイト先は伝えてなかった。
となれば彼と今日会ったのは偶然だったはずで。
「ええ、仕事で向かった先からの帰りにお店がありまして休憩を。あの店でバイトされてたんですね」
「はい、坂口さんのこと見たときびっくりしました」
「時々利用してるのでもしかしたら気が付かなかっただけで前に会ったこともあるのかもしれませんね」
「そうだったんですね、次見かけたらまた声かけます」
言いながら声なんかかけていいんだろうかと思う。
彼の方を確認して見てみれば「ぜひ」と彼は言って。
「見かけたらこちらからも声かけますね」
彼は軽く微笑んだ。