第2章 壱
「これは……?」
「店売りのクッキーです、私の奢りなので気にせず食べてください!」
これは普段、私がバイトの帰りに買ってよく食べてるものだ。
ほんのり甘くて、ちょっとしたときにつまみやすい一口サイズのもので、多忙な彼もそれくらいなら食べれるのではと思ったのだけれど。
「甘いもの、苦手でしたか?」
「いえ、そんなことはありませんが……」
「いつも疲れた顔してるのが気になってたので……、烏滸がましいかもしれませんけど甘いもの食べて適度に休んでください」
自分で言いながらこんなことを言って怒らせていないだろうかと少し不安になる。
多分彼は年上だろうし、余計に働かせているのは私のせいもあるだろう。
私は彼の働き方につべこべ言えるような立場でもないし、そもそも私はこんなお節介を焼くような人間だっただろうか。
考えれば考えるほど出過ぎた行動だったように思えてきて気が落ちてきた。
「いらなければ私が食べるので……」
そう言って私から渡したにも関わらず両手を差し出してクッキーを受け取れるようにする。
そんな私がおかしいかったのか彼はふふ、と笑った。
「そんなに沈んだ顔しないでください、ありがたくいただきますので」
彼がこんな風に砕けた表情をしているところは初めて見たかもしれない。
彼の表情に私はついぽかんとする。
けれどすぐにはっとして表情を繕った。
「お仕事頑張ってください! それじゃあ私はバイトに戻るので……!」
そうしてその場を去ることにした。