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【文スト】触れた指先に【坂口安吾】

第2章 壱




少しして客足の途絶えた頃、返却口に集められた食器やゴミ等を回収するべく私はフロアに出た。

1階と2階に分けられた店内ではどちらにも返却口が設けられているため、先に2階へと行くことにする。

階段を上って2階に行ってみれば1階よりも客数が少なく、1階に比べて更に静かな雰囲気が流れていた。

有線で流れている穏やかな曲だけが聞こえてくる中、私は通路を真っ直ぐ行ったところにある返却口まで歩く。

客数が少ないから返却されたプレートや食器、捨てられたゴミなんかもそこまで多くはない。
返却口は軽く汚れを拭く程度に留め、プレートや食器の回収だけしてしまおうとそれらを運ぼうとしたとき。

ふとある人の姿が目に入る。

眠っているのか目を伏せて、1人席の小さなスペースで座っている男性がいた。
目の前のテーブルには店内に入る時に頼んだらしいコーヒーがあるものの、しばらく時間が経ったのか湯気はもう立っていない。

どうしてその人物が目に入ったのかというと、それはそれが坂口さんだったからで。

コーヒー飲んでたのに寝ちゃったんだ。

そう思いつつ、ちょうど2日前のことを思い出す。
出会って1週間しか経っていないのに一昨日はこれ以上にないくらい極限状態なのではないかと思う程に疲れた様子だった。

彼の席へと近づいて顔をよく見てみれば、少なくとも一昨日よりはマシな顔色をしているように思える。

私は少し安堵して、小さくほっと息をついた。


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