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【文スト】触れた指先に【坂口安吾】

第2章 壱




私に何かできることがあればいいんだけど。
ぼんやりとそんなことを一瞬考えてから、いやいや、と自分の考えを却下する。

そこまで親密な仲ではないし、突然私に労ったとしても変に思われてしまうだろう。

彼が私によくしてくれるのも仕事上のことで、今は実感が湧かないけれど私が天秤にかけているのは自分の命なわけだ。
私がわざわざ気にかける必要なんて別にない。
……でも、現状はただ私がお世話になっているだけなのは事実で。

ああだこうだと考えているといつの間にか講義の終わりの時間になり、教授も説明をそこそこに講義を終える。
私も考えていることを一旦やめて、荷物をまとめた。

今日受ける講義自体は今の講義で終わりだ。
時計を見てみれば14時より少し前を差している。

私はまとめた荷物を持つと講義室から大学の正面門へと少し早足で向かった。

そしてそのまま大学を出てすぐ近くのバイト先へ赴く。

今日は夕方までバイトの予定だ。

大学から徒歩5分のカフェまで着くと裏口からバックヤードへと入る。
それから早々にバイト先での制服に着替えてしまうとタイムカードを押して表へと出た。

ごく普通のチェーン店であるから、ある程度決まったマニュアルもあって難しいことは特にない。
基本的には受付カウンターでの注文の受付、提供、あとはフロアの片付けの繰り返しだ。

既に働いていた人たちに軽く挨拶をしつつ、フロアへ目を向ける。

平日なこともあり利用しているのは学生やサラリーマンが中心だ。
お昼時を過ぎていることもあって客数はまばらで、穏やかな空気が流れている。

それだけ確認すると私は持ち場へついた。

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