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【文スト】触れた指先に【坂口安吾】

第2章 壱





「この曲線の交わる点で——……」


講義の途中、ぼうっとしながらくるくると手元のペンを回す。
そうして回しているペンの軸を見ながら私は講義とは全く違うことを考えていた。

ちょうど1週間前、実家へ帰った日から私の生活は驚くほど今まで通りであった。

変わったところと言えば私の住む場所くらいだろうか。
というのも坂口さんに案内されたあのアパートの一室に私はあれからしばらく住むことになった。

とはいえ元々住んでいたところともそう遠くないところで、全然変わった感じはしない。

協力すると言った後から、彼は私に対して心なしか親身にしてくれるようになった気がする。
彼のことについて、私がこれからどうすればいいのか、気になるところは大抵詳しく教えてくれた。


彼は異能特務課で働く内務省管轄のところで働いているらしい。

いつまでこの生活が続くかわからないからと、わざわざアパートは大学に近いところを用意してくれたのだそうだ。

一見ただのアパートに見えるけれど、いくつか対策が施されたアパートらしく、少なくとも今まで住んでいたところよりかは安心していいらしい。

彼が言うには、そういうわけであるからこれまでと同じように暮らしてもらえればいいと。

何もない部屋だから好きに家具を整えていいと家具のカタログを渡されたり、日常生活は普段通りに過ごすよう言われたり。
ただ引っ越しをしただけなのではと思えるくらいに自由度が高い。

坂口さんは巡回も兼ねて、2日に1度、アパートを訪ねにくる。
軽く日常会話をして、それからすぐに帰っていく姿はいつも疲弊しているようで私よりもずっと危機に瀕しているように見えた。

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