第1章 序章
「大前提の話として貴方の家の家業というのは情報屋でした、ここ数年は随分穏健にやっていたみたいですけど以前は殺人も厭わなかったと聞いています」
「さ、殺人……?」
表に出せないようなことをしているのだろうと予感はしていたのだけれど、正直想像以上だった。
「……その反応、本当に知らなかったみたいですね」
「し、知りませんよっ、ずっと苦手で避けてたんですから」
「確かにそんな感じではありますね」
彼は私のことをどれだけ知っているのだろうか。
私のことについては異能があると勘違いしているのに、私の家のことは私よりも知っている。
どうやら私が一方的に実家を煙たがっていることも知っている風だけれど、それだけだとどこまで理解しているのか測りかねる。
「……先程私が狙われてると仰いましたけど、私、普通の大学生ですよ」
「ですが実際、貴方の1人暮らし用の住まいにここ数日の間、侵入者がいることを確認してます」
「えっ!?」
考えもしなかったことに一気に鳥肌が立つ。
「実家の方々はそれを知って現体制では守りきれないと実家へ一度戻るよう召集したようですが」
「そう、なんですか……」
確かにそう言われると実家に呼ばれた理由も納得できる。
「でも、なんで私なんか……」
「その辺りを全て話すのは業務上守秘義務に該当しますので言い兼ねますが、少なくとも貴方の異能が絡んでると考えてます」
「……異能ですか」
そんなことを言われても。
ないものはないのに。
「……私の異能ってどんなものなんですか?」
「すみません、こちらでもそこまでは……。ですが、ある組織にとって重宝されるようなものだと推測してます」
「……」
ある組織。
どんな組織なのか全くわからないけれど、こっちも多分そんな綺麗なものではないのだろう。
そう思うと絶句した。
しかし、もし仮に本当にそうならば、私が実家に過剰に持て囃された理由も何となくわかる気がした。
本当に、そんな能力があるのなら。