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【文スト】触れた指先に【坂口安吾】

第1章 序章





「あの、私、どうすればいいんでしょう……」


うわごとのようにそんな言葉が口から出てきた。

正直、頭の中はパニック状態だった。

今の私はどうやら住む場所も安全が保障されていないようだし、唯一の後ろ盾であった実家もない。
こうして実家が無くなってしまうといくら実家を嫌っても私自身は本当にただの平凡な人間なのだと思い知らされる。

幸いにも貯蓄はそれなりにある。
これも実家のおかげなのだけれど。

でもそれだけでこの状況を生きていけるようには思えない。
坂口さんからの言葉を信じれば実家の見張りですら潜り抜けてしまうような相手らしいのだから。


「良ければ協力させてください」


困っている私に彼がそう声を掛ける。
私は懐疑的な視線を彼へと向けた。


「協力、ですか?」
「ええ」


協力も何も、私から差し出せるものなんて何もない。

そう思っていると彼は付け加えて説明をしてくれた。


「僕たちは貴方を狙っている組織を捕まえたい。ですから、その貴方に協力いただきたいんです」


要は人質ということでは。
そう言いかけて口を噤む。

多分、そんなことを言っている場合ではない。


「…………協力させてください」


私がそう言うと彼は少し安堵した表情を浮かべた。

仮に了承していなければどうなっていたんだろう。
そんな考えがふと過る。

けれど今はその考えを振り払って、彼に協力的な姿勢を示すことにした。



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