第2章 航海士ナミ
「ワンワン!ワン!ワンワン!」
シュシュが激しく吠える声と何かが燃えるような音が聞こえてきた。
視界に広がるのはメラメラと燃えたペットフード店とそれを吠えながら哀しく見上げるシュシュ。
モージだろう。
ルフィとララはすぐに犯人がわかった。
根拠はないが、奴しかいない。
「「………」」
ルフィとララは何も言わない。
亡くなった主人の形見。
ブードルはそう言っていた。
それが今、燃やされている。
ララにはシュシュの辛さが痛いほど伝わってきた。
哀しさと同時に激しい怒りが込み上げくる。
ふと、彼女が下唇を噛み締めて燃えさかる炎を見つめていると頭に何かが被された。
ルフィの麦わら帽子だ。
「…ルフィ?」
「あいつぶっ飛ばしてくる」
「……私も行こうか?」
「一人で充分だ」
「…いってらっしゃい」
ララの頭に自分の麦わら帽子を被せたルフィはどこかへ行ってしまった。
この町のどこかにいるモージの元へと。
怒りを露わにした表情のまま。
初めてみる彼の表情だった。
「……すぐ鎮火するからね。
——レイン」
残されたララは燃え続ける炎を鎮火させるために唱えた。
首から下げた青い宝珠のネックレスが淡く光りだす。
その瞬間。
ポツリポツリ、と雨が降り出した。
徐々に燃える炎が鎮火していく。
「ごめんね…助けてあげれなくて…」
「どいつもこいつも……!!
海賊なんてみんな同じよ……!!人の大切なものを平気で奪って…!」
「………」
炎を鎮火させて雨が止んだ頃。
ナミとブードルが様子を見にやって来た。
ペットフード店の燃やされた姿にナミは表情を歪める。
海賊に余程恨みがあるのだろう。
彼女は下唇を噛み締め、黒焦げになったそれを睨みつけた。
「…さっきの雨、あんたがやったの?」
「え、うん」
「なんなのよ、あんたは…」
「なんなのって言われても…」
「あんたも悪魔の実を食べたの?」
「食べてないよ。生まれつき」
「そんな人間いるわけないでしょ!」
「………」
ナミのその言葉にララは困ったように笑うしかない。
普通の人間ならばこんな能力を持っているわけがないが、彼女は神子だ。
これがララの普通。
ナミのその言葉は彼女の存在自体を否定するような発言だった。