第2章 航海士ナミ
「この傷をみろ。
きっと海賊と戦って店を守ったのだ」
「………。
…頑張ったんだね」
シュシュにはよく見ると小さな傷がいくつもあった。
ララは餌を食べ続ける白くて勇敢なその犬の元にしゃがみ込み、優しく声をかける。
少し薄汚れたその毛並みを躊躇いなく、撫でながら。
「ちょっと待って。いくら大切でも海賊相手に店番させることないじゃない。
店の主人は皆んなと一緒に避難してるんでしょ?」
「いや…奴はもう…
病気で死んじまったよ」
「!」
「………」
やはり、とララは思った。
飼い主ではなく、その友人がシュシュに餌を与えている時点でだいたい予想がつく。
「三ヶ月前にな。病院へ行ったきり」
「もしかしてそれからずっと、おじいさんの帰りを待ってるの?」
「………みんなそう言うがね…ワシは違うと思う」
「?
どうして?」
「シュシュは頭のいい犬だ。主人が死んだ事くらいとうに知っておるだろう」
「………」
「じゃ、どうして店番なんか…」
「……形見…だから?」
「!
ああ。そうじゃ。
きっとこの店はシュシュにとって宝なんじゃ。大好きだった主人の形見だからそれを守り続けとるのだとワシは思う」
「少し…わかる気がする」
「…ララ?」
シュシュの境遇はララのつらい過去を思い出させた。
一夜にしてステリア族が滅んだあの日を。
大事な忘形見だから守り続けるこの犬の気持ちが痛い程、彼女には伝わった。
齢五歳で母を失ったララには。
亡くなる直前に渡された母の忘形見、青い宝珠のネックレスを彼女は強く握った。
哀しげな表情を浮かべて。
ルフィはその表情を見逃さなかった。
普段は鈍いくせにこういう事には鋭い。
「困ったもんよ。ワシが何度避難させようとしても、一歩たりともここを動こうとせんのだ。
放っときゃ、餓死しても居続けるつもりらしい」
「………」
「グオオォォォ…!!」
シュシュが丁度、餌を綺麗に平らげたその時。
野獣のような雄叫びが聞こえてきた。
港町には不釣り合いな雄叫び。
ブードルとナミは身体を強張らせて、声のする方へ視線を向けた。