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月に叢雲、花に風

第1章 千里の行も足下より始まる


「米沢からはるばるの迎え、いたみいります。
 こちらこそよろしくお願いいたしますね、良直殿」
「ウッ……ウッス!」

 屋形の中から聞こえた、すずをころがすような声に、良直は思わず、敬礼した。

 田村家の一の姫といえば、若年にして田村軍の副将を任されている女傑と伝え聞いていた。

 さぞかし剛毅な娘に違いないと思い込んでいたが、屋形の中から聞こえた声は可憐で、偉ぶった響きも含んでいない。

 輿渡しの大任を賜る際、片倉小十郎に「輿渡しの日ばかりは“伊達軍流”は控えろ」と厳命されたが、なるほど。花嫁は案外と、姫君然とした御方らしい。

「そんじゃ――それでは、出立します。
 ここから阿武隈川を越えれば、伊達領ッス。
 伊達領にはいり次第、成実さまが迎えにいらっしゃいます」
「成実殿――たしか、伊達一門の方ですね。
 片倉殿に次ぐ、伊達軍の勇将と聞き及んでいます。
 政宗さまのご厚情、ありがたく賜りました」
「ッス!」

 頷いて、良直は行列の先導をはじめる。
 
 梁川から米沢までは、目と鼻の先だ。
 今日の夕方には、米沢城に戻れるだろう。
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