第1章 千里の行も足下より始まる
御針たちはこれであのひひじじい共のさがない口を縫い付けられると喜んでいたが、愛は御針たちの言葉を聞いて、ひどく驚いた。
御針たちの口ぶりは、祝言の席で受けた印象とは異なり、政宗は伊達家中を完全には掌握しきれていないという証左だった。
伊達軍は筆頭・伊達政宗の人徳の下に堅く結束していると聞いていたが、どうやら、普代の一部には政宗のやりように不満を抱えている層がいるらしい。
祝言の席で垣間見た政宗の婆娑羅ぶりを思えば、普代の臣が政宗に不満を抱くことも致し方ない気はしなくもない。だが、致し方ないからと言って、捨て置くことも出来ないだろう。
主と臣の関係は、基本的には「御恩と奉公」だ。
主は臣の働きに必ず報いる。
だから臣は主のために働く。
ゆえに、主が自らの働きに正しく報いてくれていないと感じた臣は、自らの働きに正しく報いてくれる主がいれば、そちらに忠を捧げる。働きを正しく評価してくれない主を見限ることは、不忠ではない。