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月に叢雲、花に風

第1章 千里の行も足下より始まる


♡ ♡ ♡

 夕暮れが、吾妻連峰に焼けて落ちるころ。

 嫁行列は、米沢城へと辿り着いた。

 愛が乗る腰輿が、びいどろ細工のように丁寧に下ろされる。

「御前様、ご到着ッス!」

 良直の声が朗々と響いて、屋形にかけられた御簾が上がる。
 愛は、白無垢の裾をふんでしまわないように気を付けながら、輿から降りた。

「化粧の間までは、俺――私がお連れいたします。
 化粧の間から先は、侍上臈が御前の案内を務めるッス!」

 良直の言葉に、愛は頷いた。
 輿渡しの際は、つい、これまでの癖で良直と言葉を交わしてしまった愛だが、本来、貴人の妻女が家族以外の男性と口をきくことは、はしたないことだとされている。

 愛が言葉をかけて、叱責を受けるのは良直だ。
 気を付けなければならない。

 先導する良直のうしろを、愛はしずしずと着いていく。

 化粧の間で良直と別れ、侍上臈の案内を受けた。

 顔を俯けたまま歩を進め、調えられた祝言の間にはいる。
 絢爛な屏風の前に設えられた畳に、腰を下ろした。

 愛が着席したことを確認して、侍上臈が声をはりあげる。
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