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月に叢雲、花に風

第1章 千里の行も足下より始まる


 田村家の嫁行列は、雪深い板谷峠を迂回して、小坂峠を進んだ。
 じきに、輿渡しが行われる梁川に着く。
 梁川は、伊達郡に位置する村落だ。
 伊達郡は、米沢と、阿武隈川を挟んで領を接している。
 この梁川で、愛の身は、田村軍から伊達軍へと渡される。

 伊達軍からは、伊達一門の者と、伊達軍の兵が迎えに来ると聞いていた。
 田村軍から嫁行列に随行していた向館内匠は、ここで伊達軍に輿を渡したあとは、三春に戻る手筈だ。
 輿渡しが行われたのちは、伊達軍が嫁行列を先導する。

 それだというのに、いまだ嫁入りの実感に乏しい己に、愛は小さく、ため息を吐いた。

(このような為体では、いけませんね……)

 愛の輿入れには、三十人の侍女が随従した。

 彼女たちは、皆、愛の輿入れに従えば、己が身分は伊達家中に取り込まれて、二度と三春には戻れないことを承知した上で、愛に従うことを選んでくれた。

 彼女たちが伊達家中に馴染み、不自由なく暮らしていけるよう計らうのは、家督の正室として伊達家の奥向を預かることになる、愛の務めだ。

(もっと、自覚を持たなければ)
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