第1章 千里の行も足下より始まる
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季節は、放たれた矢のように疾く、過ぎていく。
田村軍と同盟軍が国境で小競合いを繰り返す内、秋が過ぎて、冬が来た。
燃えるように紅葉していた山々はわたぼうしを被り、同盟軍は白い天譴の向こうで息をひそめている。
米沢を本拠としている伊達軍と結べば、田村軍は、芦名軍の本拠を伊達軍と共に挟撃出来る。
戦況が膠着しているこの冬の内に、伊達軍との結び付きをつよめるべきだということは、幼子とてわかるだろう。
――時刻は暮六(午後6時ごろ)。
日は既に奥羽山脈に沈み、月はいまだ空に昇らない。
珍しく晴れた空には、明星だけがかがやいている。
「女」に「昏」と書いて「婚」とするように、嫁行列は、日没後に生家を出立するのがならわしだ。
これは、古来の通婚の名残だというが、定かではない。
今日は朝から、やれ、白無垢の着付けだ、やれ、化粧だ、やれ、両親への挨拶だと急き立てられた。
清顕と北姫は愛の門出を言祝いでくれたが、愛はいまいち、現実感を感じられずにいた。
三春から米沢までは、休まず歩いて、約五刻(10時間)かかる。
雪道をいくこと、休憩を挟むことを考えれば、丸一日はかかるだろう。
嫁行列の輿にゆられている内に、嫁ぐ実感もわくのだろうか――
輿に乗り込もうとした愛は、最後にいちど、三春城を振り返る。
三春城――三春山の中腹に築かれた山城。
二度と、戻ることはない。
迷いを振りきるように、愛は輿に乗り込んだ。