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月に叢雲、花に風

第1章 千里の行も足下より始まる


 この窮状に、田村軍の総大将・田村清顕は、伊達軍の軍門に降ることを選んだ。

 伊達軍は、近ごろ、破竹の勢いで勢力を拡大している軍だ。
 本領は伊具だが、現在、伊具は相馬軍に奪われて、羽州の米沢を本拠としている。
 伊達軍を率いているのは、自らを「独眼竜」と号す、不遜なる若者―――
 伊達政宗。

 愛の、夫となる男だ。

 伊達軍に服属の意を示した清顕は、臣従の証として、田村家の一の姫であり、田村軍の副将である愛を、伊達軍筆頭・伊達政宗のもとへ輿入れさせることに決めた。

 婚姻を結んで家同士の結び付きをつよめることは、武門の家に生まれた女性の務めだ。
 愛の母である北姫も、田村軍と相馬軍の結び付きをつよめるために、相馬家から嫁いできた。現在相馬軍を率いている相馬義胤は北姫の甥だ。義胤は、愛から見ては従兄にあたる。
 北姫が相馬家のために田村家に嫁いできたように、今度は、愛が田村家のために伊達家に嫁ぐ、というだけのことだ。

 「誰ともつるまない」と宣言している伊達軍の長が、臣従の証とはいえ、国人として三春十万石に勢力を誇る田村軍の副将との縁談を了承した、という事実には少々ひっかかりを覚えるが、伊達家に嫁ぐ愛が伊達軍の長の立ち回りに疑問を抱くなど、差し出がましいことだろう。
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