第1章 千里の行も足下より始まる
炎暑の年は、見事な錦秋になるという。
なるほど。
たしかに、ことしの額取山は、例年よりひときわ紅々と紅葉して見える。
あの、燃えるように紅い額取山を含む連山を、奥羽山脈という。
奥羽のほぼ中心を南北に走る奥羽山脈は、さながら、自然の要害だ。
この天譴に阻まれて、田村軍は、安積の地を攻めあぐねて来た。
芦名軍に安積を逐われて以来、芦名軍から安積を奪還することは、田村軍の悲願だった。
だが、結果のほどは芳しくない。
嘘偽らざるにいえば、悪い。
かなり。
過ぎし夏。
田村軍と敵対している諸勢力が、同盟を結んだ。
即ち、須賀川の二階堂軍、石川の石川軍、白河の結城軍、常陸の佐竹軍、そして、黒川の芦名軍だ。
田村軍が本拠としている三春から見て、須賀川、石川、白河、常陸は南方に、黒川は西方に位置する。本拠の南と西を抑える勢力に連携されて、田村軍は窮状に追い込まれた。
これまで田村軍は侵略型の外交を敷いてきたが、それが裏目に出た。
現在、近隣諸国で田村軍に友好的な勢力は、三春の東方にある小高を本拠とする相馬軍だけだ。
現状、田村軍はほとんど四面楚歌の状況にあるといっていい。
――田村軍の命運は、今、乱世という風前に潰えようとしている。