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月に叢雲、花に風

第1章 千里の行も足下より始まる


 田村軍の副将として暮らしてきた己と、田村家の一の姫として暮らしていかなければいけない己、伊達軍に兵として迎え入れられた己と、政宗の正室として伊達家中に迎え入れられた己の折り合いが、どうにも上手く付けられない。

 こんなことではいけないと、愛は嘆息した。

 今日は昼八(午後3時ごろ)から、予定がある。
 久々に、政宗とまみえる機会だ。
 しょげた顔でいるわけにはいかない。

(………楽しいことを考えましょう。

 今日の予定は、装備を新調するための予定なのです。
 伊達軍御抱えの、妙珍派の職人に甲冑を新調していただけるのですよ。
 噂に聞く、鉛玉も通さぬという伊達軍の鉄黒漆塗五枚胴具足の作り手に、甲冑を製作していただけるのです)

 田村軍時代に使用していた装備は軍を辞した際に田村家に返上した旨を伝えると、政宗は、伊達軍が抱える職人を手配してくれた。

 伊達軍は、妙珍派の雪下一門を抱えている。
 雪下一門が造る鉄黒漆塗五枚胴具足は、胴は火縄が吹く鉛玉も通さぬほど堅牢で、草摺は細かくわけられて動きやすいと聞く。

(……そうです。
 沈んでいる場合ではありません)
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