第1章 千里の行も足下より始まる
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慣例に則り三日間続いた祝言ののち、愛は伊達家中に迎え入れられた。
伊達家中に迎え入れられた愛は、これもまた慣例の通りに対屋の北対を与えられ、奥向に仕える侍女たちをしきる権限も与えられる。
戦働きをするかたわら、正室の務めも果たすように、ということらしい。
元々、愛は正室として奥向に入る予定で輿入れした。
正室の仕事を任されることに、不平はない。
伊達家中に仕える侍女たちも、徐々に愛を受け入れはじめてくれている。
主である愛が伊達家中の奥向に受け入れられれば、愛に従い伊達家中に移った田村家中の侍女たちも、多少はやりやすくなるだろう。
(正室としても、兵としても、力を尽くさなければ………)
伊達軍の力添えが、田村軍の生命線だ。
伊達軍筆頭である政宗の勘気を被ることは、出来る限り避けたい。
出来る限り。
もしも再び、政宗が侍女に刃を向けるようなことがあれば、その時は命を賭して、諫めなければならない。
侍女を守ることは奥向を与る正室の務めであるし、主の間違いを糺すことは臣の役目だ。
そして、民を守ることが、国主の責務。
国主が民に刃を向けることなど、許されない。
祝言の席の政宗のような振る舞いは、本来、許されないことなのだ。
(政宗様……豪気な御方だとは聞き及んでいましたが、随分と型破りな御方なごようす。
あのような振る舞い………いいえ、いけません。
夫君を悪しざまに評するなど、妻としてあるまじきことです)