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月に叢雲、花に風

第1章 千里の行も足下より始まる


「オレが愛を娶ったのは、頭の堅いじじいどもに相馬との和睦を迫られたからでも、田村のオッサンとつるみたかったからでもねえ。
 わかってんだろ」
「………無論」

 今回の縁談自体は田村家から打診されたものだったが、伊達家中は、この縁談を容れるか断るかで、ふたつに割れかけた。
 厳密には、相馬家に優位な田村家と結べば相馬軍に有利をとれるという普代の臣の意見を、「伊達は誰ともつるまない」とする政宗の意向を重んじる外様の臣が抑えきれなかった。
 結果、家中が分裂しかけた。

 空になった盃を弄びながら、政宗が薄く笑う。

「だいたい、あいつが名将だと言ったのはお前だぜ」
「それは………政宗様が、深窓の姫君など願い下げだと仰るので、訂正したまでです。
 まさか、それがキッカケで縁談をお受けになられるとは思っておりませなんだ。
 まして、愛殿に戦働きをさせようなどと……」
「Calm down.

 見てただろ?

 あの野郎、このオレに燭台で挑みやがった。
 てめえの部下をかばうために、な。
 あれほどの器を、女だからと奥に押し込めるのは惜しい。
 田村のオッサンが要らねえなら、オレが貰う」
「政宗様」
「田村愛―――オレは気に入った」
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