第1章 千里の行も足下より始まる
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「―――政宗様」
祝言は、慣例通り、三日続いた。
ところあらわしの名残なのだろう。
三日目、花嫁は御色直しをして祝言に参ずる。
現在、愛は御色直しのために席を外していた。
上座でひとり酒を呷る主を、小十郎は苦々しい想いで諫めた。
「祝言の席では御控えくださいと、申し上げたはずです。
花嫁に刃を向けるなど、乱心、狼藉の謗りを受けることとなりましょう」
いらえない主に、小十郎は諫言を続ける。
「愛殿は田村家の一の姫、母君は相馬義胤の伯母君です。
義胤と愛殿は従兄妹の間柄。
伊達軍筆頭であるあなたが愛殿に刃を向けたとなれば、相馬に乱の大義名分を与えることになります」
「それがどうした」
盃を干した政宗が、鼻を鳴らした。
「相馬も芦名も、このオレがぶっ潰す。遅かれ早かれ、な」
「政宗様のお考えは、この小十郎も存じております。
しかし、何も晴れの席であのような行いをなされずとも……」
「くどいぜ、小十郎」
隻眼が、酷薄に小十郎を睨み付けた。