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月に叢雲、花に風

第1章 千里の行も足下より始まる


 ♡ ♡ ♡

「―――政宗様」

 祝言は、慣例通り、三日続いた。

 ところあらわしの名残なのだろう。
 三日目、花嫁は御色直しをして祝言に参ずる。
 現在、愛は御色直しのために席を外していた。
 上座でひとり酒を呷る主を、小十郎は苦々しい想いで諫めた。

「祝言の席では御控えくださいと、申し上げたはずです。
 花嫁に刃を向けるなど、乱心、狼藉の謗りを受けることとなりましょう」

 いらえない主に、小十郎は諫言を続ける。

「愛殿は田村家の一の姫、母君は相馬義胤の伯母君です。
 義胤と愛殿は従兄妹の間柄。
 伊達軍筆頭であるあなたが愛殿に刃を向けたとなれば、相馬に乱の大義名分を与えることになります」
「それがどうした」

 盃を干した政宗が、鼻を鳴らした。

「相馬も芦名も、このオレがぶっ潰す。遅かれ早かれ、な」
「政宗様のお考えは、この小十郎も存じております。
 しかし、何も晴れの席であのような行いをなされずとも……」
「くどいぜ、小十郎」

 隻眼が、酷薄に小十郎を睨み付けた。
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