第1章 千里の行も足下より始まる
「何を………。
ご乱心召されましたか」
政宗はいらえず、抜身を上段に構える。
(霞の構え………)
打刀を刺突剣のように構え、政宗は愛を睥睨している。
(どうするべきか………)
伊達軍に従属する田村軍の身の上を思えば、伊達軍の筆頭に刃を向けることは、望ましくない。
だが―――
愛が思案していると、ふと、愛を酷薄に見下ろしていた政宗の視線が、僅かに愛から反れた。
琥珀色の視線は、愛をすり抜けて、愛の後方に注がれる。
「ひっ―――!」
介添役として祝言の間に控えていた女房が、乾いた悲鳴を呑み込んだ。
(―――悩むまでも、ありませんね)
愛は決心すると、手近にあった燭台をひっ掴んで、立ち上がった。
燭台を左前身に構え、政宗と対峙する。
「如何な伊達軍筆頭と言えども、このような狼藉は捨て置けません。
この者に仇を成そうとされるのであれば、私が御相手仕りましょう」
ひい様、と、女房の震えた声が聞こえた。
政宗の隻眼が、薄く細められる。