第10章 幸せと不幸
夏油side
七海から、任務中に呪詛師に襲われたと連絡がきた。その後、灰原から悟が来てくれたが呪詛師は逃亡、風海が左腕に怪我をして、現在高専に向かっていると連絡が入った。
どの程度の怪我かは聞けなかったが、彼女の身体に傷をつけた呪詛師を逃がす悟にも腹が立った。きっと優先すべきことが他にあったに違いないと思いたい。
急いで医務室へ向かい、ドアを開けると
傑「硝子…風海は?怪我の状態は?」
硝子しかいなかった。
悟がいてくれたんじゃなかったのか?
硝「今シャワー浴びてる。血が固まってて。それと…任務中に背中と腰を打って、それが原因かわからないけど、ダメになったかも」
傑「…腕は硝子の術式で治ったのかい?」
硝子が頷いたのを確認して、シャワールームへ向かう。案の定、服を着たまま、頭からシャワーをかぶっている風海。シャワーでわからなかったが、たぶん泣いているんだろう。こんな状態の風海をほっとくなんて、悟はどうかしてる。
傑「…風海…すまない。すぐに行ってあげられなくて。」
服が濡れるのも構わずに、彼女を後ろから抱きしめる。
『…傑さん、来てくれてありがとう…ごめんなさい…赤ちゃんダメになっちゃったみたい。せっかく喜んでくれたのに…』
傑「自分を責めないで?きっと今はまだ時期じゃなかっただけだ。風海は大丈夫?」
身体だけじゃなく、心も。きっと男の私には計り知れない悲しみなのかもしれない。もちろん私も昨日覚悟を決めて、子どもにとって誇らしい父親になれるように風海を守っていけるようにしたいと思っていた。だけど、今回は何一つできなかったことが悔しい。
震えて、ただ涙を流す彼女を見てられなかった。頭を撫でぎゅっと抱きしめ直す。
『大丈夫じゃないです…』
と小さく漏らして、大きな声で泣き始めた。
『ごめんなさいっ!わたしのせいで…』
こんなに取り乱しているのは初めて見たかもしれない。年末のトラブルの際に、こっそり医務室に様子を見に来た時もこのような気配を感じたが。
その後もわんわんと泣く風海を抱きしめ続けた。