第10章 幸せと不幸
悟さんと車の中で言い合っている時から違和感はあった。考えたくなかったけど、降りる時に確信をした。
出血してる。
座席に血が付くなんて、他に考えられない現象だった。
まだ確信を持ちたくなくて、泣きたくなくて必死に取り繕うとした。七海くんに何度も大丈夫ですか?顔色が悪いですよと言われたけど、必死に頷いた。
医務室について硝子さんの顔を見たら急に涙が溢れてきた。間違えじゃないかな?反転術式で治らないかな?強く背中や腰を打っただけで、赤ちゃんは無事でいてくれないかな?
小さな声で硝子さんに報告した。
『任務中に背中と腰をぶつけて、今たぶん出血してるんです…下から…』
聞くなり表情を歪ませたから、あぁ…もうダメなんだ…と確信に変わり、涙が溢れた。
硝子さんが悟さんを呼び止めてくれたけど、医務室を出ていってしまった。今はそばにいて欲しかった。
硝「五条には言ったの?」
首を横に振る。
『悟さん…赤ちゃんのこと、どうでもよかったのかな…』
硝「アイツは風海のことを何よりも大切に思ってるよ?だけど、知らないなら責めるべきじゃないよね。」
そうだよね。悟さんは悪くない。
それだと自分のことしか考えてない。悟さんはいつも私を最優先してくれてる。だから怒られちゃったのは理解してる。けど…
『…そばにいて欲しかったな…』
処置していた硝子さんの手が止まり、困ったように笑った。
硝「風海も大変だな。もうすぐ夏油が来るから、存分に甘えな?アイツはそーゆーやつでしょ?ちゃんと役割分担があるんだからさ。五条もクズだけど、風海といるようになってからは気持ち悪いくらい一途だし、アイツなりに一生懸命なのはわかってやってよ。」
コクンと頷き、処置の終わった腕を見つめる。
硝子さんの反転術式って本当にすごい。医務室についているシャワーを借りることにして、血を洗い流す。髪やいたるところに血がついて固まっていたので、拭き取ることを諦めたと言った方が正しいかもしれない。