第1章 眠り姫
「失礼するよ、主」
案の定、主は執務室に残って1人で仕事をこなしている。
集中しているのか、返答がない。
「主」
トントン、と肩を軽く叩くと主は山姥切長義の方を向く。
「あ、長義。遠征お疲れ様」
「ただいま。遠征の報告書だ、確認して欲しい」
「確認します」
山姥切長義から書類を受け取り、遠征の報告内容を確認する。
「主」
「なあに?」
顔を向けることなく、ペラペラと複数枚の紙をめくりながら長義の声に耳を傾ける。
「今日の近侍は日光だったろう?
休ませた日光の代わりの近侍は誰にするか決めたのか?」
「まだ決めてないよ。遠征を終えた刀達や内番をしてる刀達には頼みたくないのよね、疲れているだろうし」
主はうーん、と考える顔をしながら、代わりの近侍を決めかねている。
「俺で良いなら構わないよ」
「本当?長義、さっき遠征から帰ってきたばかりで疲れているんじゃ?
「他の刀に近侍を申し出るより、手っ取り早いと思うが」
「それもそう、か…。じゃあお願い」
主は書類に判子を捺し、長義に日光の代わりに近侍をするよう命じた。
「日光から引継をしてもらうから、少し席を外すよ」
「うん。行ってらっしゃい」
一旦執務室から出て、肩で息をする長義は改めて日光の所へ向かった。
*
「お前が俺の代わりに近侍を?」
「ああ。自分から申し出た。その方が手っ取り早いし、主に余計な手間をかけずに済む」
「なるほど」
確かにと納得した日光はすぐに山姥切長義に引継をし、近侍を交代してもらった。
「後は任せた」
「ふっ、任せてくれ」
山姥切長義はすぐに執務室に戻り、近侍としての役目を果たした。