第1章 眠り姫
本丸に帰ったら帰ったで、あの無愛想な日光に戻ってしまった。
公私混同させないためにと互いに話し合って決めたことだったから、当然なのだけれど。
あの時の優しい顔をした日光が目に焼き付いて離れなくて、つい彼の顔を見てしまう。
「……なんだ、俺の顔に何か」
「…いえ」
安定の仏頂面。
ぶっきらぼうで愛想のない佇まいをしているけど、本当は優しい人だということを知っている。
だから時折見せる優しさには、胸が高鳴ってしまう。
今は仕事に手一杯で、桔梗の花言葉も調べられずにいる。
日光も言ってくることはなかったし、主の方は仕事が忙しくて完全に忘れてしまっていた。
「ふあ…」
仕事が一段落して、欠伸をする。
「だいぶお疲れのようだが」
「あぁ、日光…」
「そろそろ休憩しろ」
日光は主が持っている書類を取り上げた。
「あっ」
「無理をするなと散々言ってきたはずだが」
「あと少しだし」
「少しと言いつつ、まだ量があるから駄目だ」
山姥切の2振もよく言っていた。
主は見守っていないとすぐに無理をする、と。
特に山姥切国広からは、主は無理をしすぎて身体を壊した事もあるから様子を見てくれとも言われている。
「………わかった。日光のお言葉に甘えさせていただきます」
「ああ、後は俺に任せて主は休憩しろ」
主が素直に日光の厚意に甘えてみれば、日光は主の頭を撫でた。
日光は最初からそうしろ、という顔をしていた。