第1章 眠り姫
「ねぇ、日光。この簪なんだけど…なぜ桔梗だったの?」
「…秋だから売っていた、というのも理由の1つではある。
だが、それを見付けた時、主が使っている姿を想像してしまった」
恋仲になる前だったがな、と日光は苦笑いをしていた。
当時を思い出すと、とても懐かしい気分になった。
自分に霊力を使った主が長い眠りについてしまっていたこと。
それを見た乱藤四郎が、主を眠り姫みたいと言ったこと。
山姥切長義に主を好いていると気付かれ、鼓舞激励を受けて告白をしたこと。
「日光?どうかした?」
「…いや」
主の方へ顔を向けると、ん?という顔をしていて。
「…桔梗の花言葉は、気品と誠実だけではないと知っているか?」
「えっ、そうだっけ」
日光は主の方へと身体を向け、かんざしに触れた。
「……これを主に誓うには、まだ早すぎるか」
「ねぇ、何?」
「自分で調べてみるんだな」
「いじわるー!」
少し拗ねた顔をした主が、クスッと笑う日光の胸を小さく突く。
そんな主を、日光は自分の腕の中に閉じ込めた。
「…………!」
「先程までの威勢はどうした?」
「……笑わなくてもよくない?」
主が可愛いことをするから。
なんて言う訳もなく、ただ主を抱き締めている。
「笑ってなどいない」
「日光が花言葉を教えてくれないから」
「…ああ、そうだな。いずれ教えよう。
だが、今は俺にも主との2人だけの時間を堪能させてくれ」
「…うん」
日光は話を遮るように主に口付けをした。