第1章 眠り姫
「…………!」
「ここは人が多いし、手を繋いでいた方がはぐれずに済むな。
しばらくこの状態でいよう」
日光は不意打ちにこういうことをしてくるから、心臓に悪い。
ただでさえ背が高くて目立つのに、その上今は着物姿だから余計に周りからの注目を集めている。
…でも、嫌ではなかった。
出来ることなら、ずっとこの手を繋いでいて欲しい。
「少し移動しよう」
繋がれた手に、少し力が加わった。
目が合うと、日光は微笑みをくれて。
普段みたいにニヤリと笑う感じではなく、自然で優しい微笑みだった。
「こんな所にもあるんだね、冬桜。こっちは八重咲きのお花なのかな、可愛い」
「ここの方が人が少ないな」
移動して来た場所は穴場なのか、人が少なくて落ち着ける。
隣には、桜を眺めている日光の横顔があって。
「日光、誘ってくれてありがとう。
息抜きしたいなって思っていたところだったから」
「ああ。誰にでも息抜きは必要だ」
主も日光の手をキュッと握った。
日光の男らしさ溢れる大きくて温かなこの手を今は、今だけは離さないでほしい。
そう思った。